広島高等裁判所 昭和30年(う)16号 判決
論旨は、本件は窃盗の点が未遂の場合であるから、準強盗未遂を以て諭ずべく、準強盗既遂を以て問擬したのは法令適用の誤があるというのであるけれども、しかし本件は準強盗既遂を以て問擬したものではなく、強盗傷人の既遂を以て問擬したものであることは原判決の法令の適用を見れば明らかである。(原判決が刑法第二三八条をも挙示しているのは無用のものを掲げたに過ぎない)
そして、窃盗未遂犯人が逮捕を免れんがため、単に暴行又は脅迫をしたに止まるときは、準強盗未遂罪を以て問擬すべきものであることは所論のとおりであるけれども、本件のように、進んで右暴行により相手方に傷害の結果を生ぜしめるに至つたときは強盗傷人罪を構成し、財物奪取の目的を遂げない場合においても強盗傷人罪の既遂を以て論ずべきものである。けだし、強盗又は準強盗罪における保護法益は財産であることが明らかであるから、これが既遂未遂は財物奪取の点についてこれを見るべきも、強盗致死傷罪においては、むしろその主要な保護法益は生命、身体にあるものと解せられるから、これが既遂未遂は財物奪取の点にかかわらないものと解するを相当とするからである。
従つて原判決には所論のような法令適用の誤はない。所論引用の判例は、窃盗未遂犯人が逮捕を免れんがため単に相手方を脅迫したに止まる場合に関するものであつて、本件には適切でない。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 尾坂貞治 裁判官 池田章)